それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
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第五章 その11
 沙也加と母親は黙って頭を深々とさげていた。
「夜分大変申し訳ございませんでした。本当にありがとうございました」
 丁重に奥さまがお礼を言うと、ラッキーは奥さまの腕からするりと抜け出して沙也加の膝に飛び乗った。
 みんなは驚いてラッキーを眺めていた。
 たまりかねた沙也加は、ラッキーを優しく振り払って奥さまに渡した。
「さあ、ラッキーお家へ帰りましょう」
 と言って抱っこした奥さまの顔が真っ青になった。
 ラッキーの目から涙が流れていた。
 奥さまは涙が溢れ嗚咽をこらえながら観念したように、優しくラッキーを畳に降ろした。
 ラッキーは奥さまの目をじっと見て「クーン・クーン」と鳴いてから、沙也加の側へ尻尾を振りながら行った。
 その光景をじっと見ていた大沢は、
「……沙也加さんには負けました」
 涙を流しながら呟いた。そして、
「なぁ……純子、ラッキーを沙也加さんに譲ろう。いいだろ?」
 奥さまは泣きながら頷いた。
「えっ、本当ですか、ありがとうございます。いくらで譲っていただけるんですか?」
 沙也加は素直に訊ねた。
 すると大沢は、
「ラッキーを助けてくれて、これだけかわいがってくれたお礼としてラッキーは沙也加さんに無償で差しあげます。そして、約束通り礼金として百万円は受け取ってもらはなくては困ります」
 誠実な態度ではっきり言い切った。
「ほ、本当にいいんですか?」
 沙也加は驚いて訊ねた。
「はいっ! 本当です。私たちはラッキーからお金では買えない大切な心を教えていただきました。どうかこれからはラッキーいや光チャンをよろしくお願いします。そして、一日も早くお母さまとお婆さまがお元気になられ、ご家族が幸せになられることを心から祈っています」
 それを聞いた瞬間、沙也加と母親は感激して大声で泣き出した。
 大沢の人情味あふれる光景を目の当たりにして、里香は大きな瞳から滝のように涙が溢れていた。江美は静かに閉じた両目から一筋の涙が頬を流れた。どんべえも「キューン・キューン」と感動して泣いていた。
 江美たちはそれぞれが複雑な気持ちで高橋宅を跡にした。
 車中、寂そうにしている妻に大沢は、
「純子ありがとう。今は寂しいだろうが、明日、わんランドに行って好きな仔犬を買ってきなさい」
「あなた、本当に良いんですか」
「もう、俺は心も体も元気になったから、健康のことは気を使わなくて良いから、純子が好きな仔犬を買ってきなさい」
「あなた、ありがとうございます」
「なぁ……純子、良いことをすればこんなに気持ちが晴れ晴れするとは……」
 大沢はそう言いながら朗らかに笑い出した。
 そして大沢はさわやかな口調で、
「江美さん、本当にありがとうございました。これからも忍術をよろしくお願いいたします」
「えっ、知っていたのですか?」
「ええ、城田からすべて聞きました」
「大沢さん、今夜はまったく忍術を使っていないですよ」
「そうなんですか……。まあ、俺にとっては忍術を使っても使わなくても、こんな素晴らしい結果になったことに心から感謝しています」
「大沢さん、ありがとうございます。これからもわんランドをご贔屓によろしくお願いします」
 狭い車中にさわやかな笑い声が響いた。

 了

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