それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第四章 その10
 その頃、ラッキーはずぶ濡れになりながら飛田遊廓をうろついていた。午前中は人通りが少なかったが、昼過ぎからぽつぽつ通行人が現れて来た。遊廓がずらりと左右に並ぶ通りで、一人の小柄な若い女性が傘をさして歩いていた。豪雨のため視界は悪いが、交差点からミニチュアダックスの仔犬がフラフラ歩いて来るのがぼんやり見えた。若い女性は小走りに仔犬に駆け寄り、しゃがみ込んで傘を差し出して、
「あら、どうしたのわんチャン」
 天使のような美しい声で優しく訊ねた。
 仔犬はその若い女性の顔を見て、尻尾を力なく振って「クーン・クーン」と鳴きながら、体を足元へ近づけて来た。若い女性はずぶ濡れの仔犬の頭を優しく撫でながら、
「こんなに濡れてかわいそうに、わんチャンのお家はどこなの?」
 若い女性はハンカチで仔犬の体を拭きながら訊ねると、仔犬は若い女性に甘えるように戯れついた。
(なんてかわいい仔犬かしら……)と思いながら、抱き上げると小さな舌でペロペロと若い女性の顔を舐めた。
 若い女性はまるで赤ちゃんを抱き締めるように、優しくギュッと仔犬を抱いたまま、斜め向かいの遊廓に入った。
「おはようございます」
「おはよう、あら、沙也加ちゃん、その仔犬どうしたの?」
「すぐそこの交差点にいてたの、どうも捨てられたか迷子になったようなの……」
「かわいそうに、ずぶ濡れじゃあないか、バスタオルで拭いてあげなさいよ」
 おかみさんは沙也加にそう言いながら、奥からバスタオルを持って来た。
 沙也加は仔犬の全身を丁寧に拭きながら、
「このわんチャン、毛が黄金に輝いてるわ……」
「あらまぁ、ほんとキラキラと黄金に光っているわね。珍しいミニチュアダックスだわね」
「でも、こんな珍しいわんチャンが、どうして……? 天から降って来たのかしら?」
「まさか、そりゃないでしょうけど。ねえ、沙也加ちゃん、わんチャンお腹空いてるんじゃないかしら?」
「そうかもしれないわ。歩き方がフラフラだったから」
 おかみさんは、奥から牛乳を入れた容器を持って来て、仔犬の前に置いた。すると仔犬はお坐りして舌を出して欲しそうに牛乳を見つめている。
 おかみさんと沙也加は目を合わせて首を傾けた。
 沙也加は何気なく、容器を持ちあげて降ろす時「よし」と言った。すると、仔犬は尻尾を激しく振りながら夢中で牛乳を飲み出した。あっという間にたいらげてしまった。
 いつまでも空になった容器を舐めているのを見ていた沙也加は、
「あの……パンはないですか?」
「食パンならあるわよ」
 おかみさんはそう言いながら奥から食パンと牛乳を持って来た。
 沙也加は容器に食パンを細かくちぎって入れ牛乳をかけた。
 そして、「待て」と言って容器を置くと、仔犬はお坐りして待っていた。
「よし」と言うと、大喜びして食べ出した。
「沙也加ちゃん、この仔犬きっちり『しつけ』してあるわね」
 おかみさんは感心しながら言った。
「ええ、『しつけ』しているということは、きっと捨犬じゃあないわね」
 寂しそうに沙也加は小声で言った。
 沙也加は家庭の事情で月々まとまったお金が必要だったので、一年前からこの遊廓で働いていた。
 小顔で瞳は大きく人形のようにかわいい、体は小柄だが、乳房とお尻が大きく腰は細く引き締まっていた。性格も優しく良く気がついて男性に奉仕的だったので、今ではこの遊廓界隈では人気ナンバーワンになっていた。やって来るお客さんは、沙也加のことをエロかわいい女性として贔屓にしていた。

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