それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第四章 その5
 城田はすかさず攻撃の構えをした、さすがに空手四段の有段者だけあって隙がない。
 一方、江美は隙だらけの無我の境地で立っていた。江美の頬にぽとりと雨粒が落ちた。突風が吹き抜けて木々がザワザワと音を立てた。
 どんべえはお坐りして二人の闘いをじっと見ていた。息をはずませて中村と鈴木がやっと追いついて来た。
 緊張した雰囲気のなかで、城田と江美は睨み合って立っていた。そんな空気のなかに入り込めず、中村は唾をゴクリと呑んで、呆然と成り行きを見つめるだけだった。
 突然、「ヤッ!」と絶叫した城田は、江美の顔に向かって鋭い鉄拳を数発くり出した。
 江美はそれを間一髪の見切りをつけて躱した。続いて、素早い回し蹴りが顔面に近づいた瞬間、江美は俊敏にとんぼを切ってそれを躱した。城田は阿修羅の形相になって、江美に激しく攻撃をするが、ことごとく空を切るだけだった。
 江美はとんぼの回転を速めると、ふぁーと鳥のように舞い上がった。見上げると五メートルもある木の枝の上に立っていた。
 驚愕した城田は絶叫した。
「きさま、忍者か?」
「そうよ。ウチは忍者くノ一、服部江美。もう許さないわよ」
「な、なんだと……」
 城田はあとずさりしながら呟いた。
 江美は木の枝をバネに高々と舞い上がると、城田の頭上でクルリと一回転して、城田の背中を力任せに蹴り上げて着地した。城田は「ウッー」と呻きながら、膝から崩れ落ちた。
 中村はその光景をぽっかり口を開けて呆然と見つめていた。鈴木は驚きを隠せず小刻みに身震いしていた。
 着地した江美は中村を見て、
「あら、見てたの中村君。さあ、城田を逮捕してくれない」
 と、こぼれるような笑顔で言った。
 中村はその江美の笑顔を見て激しく心臓が高鳴った。
(あかん、もう完全に惚れてしもうた)と、腹のなかで呟いて赤面した。
「中村君、何をボーと立ってるの、早く手錠をかけてよ」
「は、はいっ。えらいすんまへん」
 中村は慌てて内ポケットから手錠を取り出して、気絶している城田の両手にかけた。
 江美は城田を起こして背中に膝で喝を入れた。すると城田は呻きながら意識を取り戻した。両手に手錠をかけられているのに気づくと観念したように頭をうな垂れた。雨は大粒になり激しい雨音に変わった。
「あなたは、元社長の城田さんに間違いないわね」
 江美は一段と声を大きくして訊ねると、城田は俯いているだけだった。
「大沢さんの仔犬を盗んだの?」
「……」
「もう、観念して白状しなさい」
「……」
「おい、城田ええかげんに白状せえ」
 中村は苛立って城田の胸元を掴んで叫んだ。
「……」
 城田はじっと頭を垂れて沈黙していた。

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