それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第三章 その10
「江美さんは僕には雲の上の人ですから……中村先輩に任せます」
「そや、鈴木は見る目あるなぁ……まぁお互い頑張ろうな」
「はいっ、頑張ります」
 二人はすっかりアルコールが回っていい気分になり、串カツ屋を出てジャンジャン横丁をフラフラしながら捜査を始めた。そして、あいりん地区へ向かった。
 この地域は愛称であいりん地区と呼ばれ地図のどこにも載っていない。どこからどこまでというはっきりした境界はないが、ほぼ大阪市西成区萩ノ茶屋周辺のJR大阪環状線・新今宮駅より南に位置する地域といわれている。
 この地域は西日本最大のドヤ街・寄せ場(日雇労働者の就労する場所)となっている。人口は二万人程だと推測されるが、景気や季節により変動が激しい。景気が悪ければ労働者は長期契約で出稼ぎにも行く、冬になれば体力のない人間は道端で死んでいるのも珍しくない。
 小一時間後、二人は陽が暮れ始めたあいりん地区をキョロキョロしながら歩いていた。鈴木は興奮した口調で、
「話しでは聴いていましたが、こんな所とは……ものすごい地域ですね」
「そうやろ、若い女性は一人もおらんやろ、まさに日雇労働者の街やなぁ」
「自動販売機も安いですね……コーヒー八十円、お茶は六十円になっていますね」
「見ろよ……あそこのホテルは一泊千四百円やで」
 中村が指差して言うと、鈴木も指差して、
「あ、あそこの旅館は一泊七百円ですね……めちゃ安いですね」
 驚きの声で言った。
 すると中村は、
「鈴木、今晩はもっとええとこで泊まろうか?」
「もっとええところって……どこにあるんですか?」
「あるで、青カンやがなぁ」
「えっ、青カンって、もしかすると野宿ですか?」
「そうや当たりや、三角公園の中で泊まるんや。あいりん地区の社交場といわれている場所やから、何か情報が掴めるかも知れんからなぁ」
「ちょっと怖いですね」
「鈴木、何が怖いや、お前は警察官ということを忘れたのか?」
「忘れた訳ではないですが、初めての経験だから……ちょっと……」
「俺がおるから安心せい、アルコールと食べ物を餌に手掛かりを掴む絶好の場所やからな」
「中村先輩、わかりました。腹をくくって頑張ります」
 やがて、中村と鈴木は弁当とカップ酒や缶ビールをどっさり買って三角公園に入った。
 ステージ前で日雇労働者四人が賑やかに話しをしていた。
「こんばんは、ここに坐ってもいいでっか?」
 中村は大きな声で訊きながら、勝手に坐ってしまった。鈴木も遠慮がちに中村の横へ腰を降ろした。二人は弁当を取り出し、ビールを飲みながら食べ出すと、周りの四人がゴクリと喉をならしてじっと見ていた。

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