それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第三章 その8
 新世界ではソフト開発会社の元社長の顔写真とプロフィールを見ながら頭にインプットした中村は鈴木へ手渡した。顔写真は前の髪の毛が薄くおでこが広く見える、目は細く鼻が高く引き締まった口元、どちらかと言えば精悍な顔立ちをしている。
 メモには城田幸雄、年齢は五十三歳、身長は百七十センチでやや細身。空手四段でスポーツ万能。男気のある性格でちょっと言葉遣いは荒い、と書いてあった。
 中村と鈴木はこれだけの情報を頼りに、キョロキョロしながら通天閣を通り過ぎてジャンジャン横丁へ向かった。
 ジャンジャン横丁は、正式には南陽通商店街といわれている。浪速区の最南端に位置して、太陽の光が燦々とふりそそぐ通りということで命名されたそうだ。
 昔は通天閣(浪速区)と飛田遊廓(西成区)を結ぶ道筋に当り、戦後まもなく飲み屋や射的の店が立ち並んで、遊廓へ行く客に向かって三味線でジャンジャン、太鼓でドンドン、小太鼓でテンテンと鳴り物入りで客引きをしたことから、ジャンジャン横丁またはジャンジャン町と愛称がついたそうだ。
 この横丁の名物は安い串カツ屋や居酒屋が軒並みあることだった。
「おい鈴木、ジャンジャン横丁やで……どや、あそこの串カツ屋で一杯ひっかけるか?」
「中村先輩、まだ四時過ぎですから……ちょっとアルコールは……」
「何を言ってるんや、今は日雇労働者になりきるのが仕事やないか、江美さんも本物の日雇労働者になれって言ったやないか」
「まぁ……そういうことですよね。そしたら、一杯だけでも飲みましょうか」
 酒好きの中村の屁理屈に負け、鈴木もその気になって串カツ屋へ入った。
「まいど! 何しまっか」
「生ビールしてんか」
「へい、生二丁おおきに」
 二人は立ったまま美味そうに生ビールを飲みながら、カウンターのカゴに盛ってある肉、エビ、ホタテや野菜の串カツを食べ出した。
「中村先輩、串カツめちゃ美味いですね」
「そうやろ、ジャンジャン横丁の串カツは日本一安くて美味いんやで」
「このソースがなんとも言えないコクのある味ですね」
「あかん、あかん、鈴木。ソースの二度づけは、あかんで」
「えっ、二度づけは駄目なんですか?」
「ほら、貼り紙があるやないか」
 中村が壁の紙に指差した。そこには大きな字で「当店はソースの二度漬けはお断りしてます」と書いてあった。鈴木は不思議な顔をして、
「中村先輩、何で二度づけ駄目なんですか?」
 と訊ねると、中村は生ビールをグッと飲んで、
「鈴木は初めてやから、わからんと思うが、このソースの容器は鈴木だけのためにあるんと違うんや、みんなが一緒に使うんや、そやさかい二度づけしたら衛生によくないし汚いから禁止なんや」
「そうだったんですか、了解しました」
「こら鈴木、了解しましたは駄目だぞ」

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