それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
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第三章 その3
 二人の若い警官は仕方なく西成署へ戻る途中、バイクがガス欠になりそうなのでガソリンスタンドへ給油に寄った。中村は期待もせずこのガソリンスタンドの若い女性スタッフにラッキーの写真を見せると、
「あれ、この仔犬、今朝九時過ぎに見かけましたよ。自転車の前カゴに乗っていましたよ」
「えっ、自転車?」
「そうです。年配のちょっと汚らしいおじさんと綺麗な色の仔犬だったので、ちぐはぐな感じだなと思って、印象に残っているんです」
「おっさんは、どんな服を着て、どんな人相しておりましたか?」
 中村が訊ねると、女性スタッフは思い出しながら、
「さあ? チラッと見ただけなので……、仔犬が印象に残っているだけで……確か服はベージュの作業着みたいでしたが、人相まではわかりません」
 女性スタッフは自信なさげに答えた。
「そうでっか、おおきに」
「あの……、何かあったんですか?」
「どうも誘拐されたようなんですわ」
 中村が答えると、女性スタッフは驚いて、
「えっ、誘拐事件!」
 半オクターブ高い声になって叫んだ。
「それで、どっちへ走ってはりましたか?」
「あっちです」
 緊張した表情の女性スタッフは右手で北の方向を指差した。
「おおきに、助かりました」
 そう言った中村は慌てて、江美へ電話した、
「江美さん、やっと目撃者が現れましたで」
「ご苦労さまです。で、状況を聞かせてくれますか」
 中村はおもしろい大阪弁で話しながら、若い女性スタッフから聞いた情報をキッチリ伝えた。すると江美は、
「車じゃなくて自転車なの……で、その年配の男性の容疑者は北へ走って行ったの、そのガソリンスタンドから北ということは……、新世界かあいりん地区かも知れないわね」
「江美さんもそう思いまっか? 私もそんな気がしてしょがないんですわ」
「ウチは今、新世界に来ているのよ」
「えっ、新世界でっか?」
「そうなの、大沢のご主人を追跡したら新世界に来たのよ」
「そうでっか……さすが江美さんですね」
「そんなに、おだてないでよ恥ずかしいわ……」
 江美は電話口で苦笑しながら言った。
「あの……江美さん」
「なんですか?」
「えーと……事件が終ったらデートしまへんか?」
「何を言っているのよ、仕事中でしょう。不真面目な警官ね」
「はあ……えらい、すんまへん」
 江美から叱られた中村は頭を掻きながら謝った。
「それじゃあ、すぐに新世界に来てちょうだい」
「それが駄目なんですわ」
「なぜ?」
「上司が仔犬の誘拐ごときで時間を使うな、すぐ署へ戻ってこいって言ってまんねん」
「何が仔犬ごときよ……もう頭にきたわ、上司って誰なの?」
 江美は少し声を大きくして訊ねた。すると中村は言いにくそうに、
「いや……あの……」
 そう言いながらためらっているので、
「誰なのよ?」
 と、江美は鋭く詰問した。
「実は、江美さんもよくご存知の……望月警視なんです」
「えっ、望月警視があなたの上司だったの?」
「はあ……、そうなんでございます」
「望月警視はウチの叔父さんだから、あとで連絡しておくわ、だからすぐこちらへ来てちょうだい」
「はい、喜んで」
「もう……おやじギャグ言ってる場合じゃないわよ」
 中村は飛び上がらんばかりに喜んで後輩の鈴木を連れて新世界へ急いだ。

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