それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
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第二章 その8
 五月下旬のある日、なま暖かい風が吹く午前九時過ぎ、開店前の静かなわんランドの事務所に一本の電話が鳴り響いた。店長は業者からの電話にしたら早すぎるなと思いながら受話器を取った。
「おはようございます。ペットショップわんランドの杉田でございます」
「も、もしもし……服、服部江美さんをお願いします」
「申し訳ございません。まもなく出社すると思います。あの……恐れ入りますが、大沢様の奥さまでしょうか?」
 上品な声に覚えのある店長はそう訊ねた。
「は、はい……さようでございます」
「いつもお世話になり、ありがとうございます。もし急用でございましたら店長の私が代わりにお伺いいたします」
「た、たいへん。ラッキーがいないんです」
「えっ、ラッキーがいない? よろしかったら状況をお話しいただけませんか?」
「慌てて失礼いたしました。実は今朝、いつものようにラッキーと一緒に主人を見送ったのが八時、それから洗濯とか掃除をして九時頃にラッキーがいないことに気づいたんです。家中を探してもいないことがわかり、真っ先に服部江美さんにお電話したんです」
「それは大変ですね、承知いたしました。それでは大至急、服部江美と連絡を取り、奥さまの家へ訪問させますので、しばらくお待ちください」
「わかりました、よろしくお願いします」
 店長から連絡を受けた江美は驚いて、ワゴン車の進行方向を変えて帝塚山の大沢邸へ向かって疾走した。
 江美のワゴン車が大沢邸に近づくと、奥さまは門の前でそわそわして待っていた。
「おはようございます。ラッキーがいないんですって?」
「そうなんです。いつの間にか消えてしまったんです」
「いつの間にか消えた……」
 江美は不思議そうに呟いた。奥さまは少し早口で、
「朝九時前まで家の中や庭を走り回っていたのを見たんですが、ラッキーが静かになったので、どうしたのかなと思って、家中を探してもどこにもいないんです……」
 心配そうな表情で語った。
「そうなんですか、すぐ警察に捜索願いを出しましょうか?」
「は、はい、お願いします」
 江美は警察へ電話するとテキパキと事件の内容を伝えた。
「奥さま、警察はすぐに駆けつけて来ると言っていました。それでは、午前九時前の状況を落ち着いてよく考えて詳しく話してくれませんか」
 奥さまは主人を見送った場所から詳細に思い出しながら説明を始めた。そのときチャイムが鳴った。警察にしては早過ぎると思いながら、奥さまがインターホンに出ると里香の声が聞えた。タクシーで一緒にどんべえも来ていた。

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