それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第一章 その10
 笑いもおさまって静かになった時、「四百万円」と、高級クラブのママのような女性が言った。
 すると店内のみんなは、先程入札した白髪の婦人をじっと見つめて、次の入札を待っていた。しかし、白髪の婦人は黙って天を仰いでいるだけだった。
 それを確認した里香はさわやかな口調で、
「只今、四百万円になりました。誠にありがとうございます。もう、入札がございませんでしたら、これで落札したいと思いますが、いかがでしょうか?」
「ちょっと待ってください」
 白髪の婦人が慌てて、
「五百万円でお願いします」
 とキッパリ言った。店内から「ええっ」と、驚きの声があちこちで洩れた。
 しばらく会場は騒然となった。
 里香は会場を見渡しながら静かになるのを待っていた。突然、
「六百万円」と、叫ぶような声が店内に響き渡った。会場は「うぉー」と、驚愕の声がこだました。
 誰が六百万円を入札したのかと、場内の視線は叫び声の方へ移った。その人は入札を競っていた恰幅のいい壮年だった。
 みんなは期待して、白髪の婦人と高級クラブのママのような女性をジロジロと見つめた。二人とも沈黙して首をうな垂れ、もう諦めているようだった。
 そんな空気を察知した里香は大きな声で、
「それでは六百万円で落札いたします。よろしいでしょうか?」
 里香は、誰か入札するかもしれないと期待を持って訊ねたが、誰も他人事のような顔をして立っているだけだった。
 商売熱心な店長は(六百万円か、三百万円も儲かる……)と、込み上げてくる喜びを腹で笑って、冷静を装っていた。
 決断した里香は元気に、
「では、六百万円で落札します」
 机をポンと叩いて叫んだ。そして、
「誠にありがとうございました。これでオークションを終了いたします」
 と言って拍手をした。緊張の糸が切れたようにホッとした参加者から大きな拍手が起こった。
 店長は(やった! 三百万円も儲かった)と、こぼれる笑顔を抑えきれず、落札した恰幅のいい壮年にペコペコしながらお礼を言って、売買契約と決済をしてもらうために三階の事務所へ案内した。
 入札を競って落札できなかった白髪の婦人は、落札された仔犬の柵の前にしゃがみ込んで悲しそうに涙を流してじっと仔犬を見ていた。
 それを眺めていたどんべえは、その白髪の婦人にそっと近づき慰めるように「クーン・クーン」と、鳴きながらカラダをスリ寄せた。
 このあと店内では楽しいドッグショーとユニークな賞品がもれなく当るビンゴゲームが予定されていた。

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