それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第一章 その9
「只今より幸運をもたらす奇跡の犬、ミニチュアダックスAZのかわいい仔犬のオークションを開始します。それでは三十万円からスタートします」
 司会の里香が元気に呼びかけると、川が堰きを切ったように、
「三十一万円」
「三十二万円」
「三十三万円」
「三十四万円」
「三十五万円」……と、若い女性や子連れの若い婦人が次々と一万円単位で入札していた。
 すると、どこからか男性の太い声で「五十万円」と聞えた。
 それからは「六十万円」「七十万円」「八十万円」……と、十万円単位で入札価格が上がり始めた。
 初めに入札した若い人たちは黙り込んでしまい、ただ成り行きを見守るだけになった。
 さらに「百万円」「百二十万円」「百五十万円」……と、うなぎ昇りに入札価格は上がり二百万円になったところで店内は一瞬、水を打ったように静かになった。
「お陰さまで入札価格は二百万円になりました。ありがとうございます」
 里香がお礼を言うと、店内は少し騒然とした。里香は間髪入れずに、
「よろしければ、引き続き入札してください」
 しばらく沈黙は続いたが……、
 静寂を破って「二百五十万円」と、恰幅のいい壮年の低い声が店内に響い。みんなの視線は一斉にその壮年へ移った。
 オークションに参加しいるほとんどの人はもう諦めて、かたずを呑んで見守っいた。
「二百七十万円」と、和服を着て髪をアップにした高級クラブのママのような女性がきれいな声で入札した。
 みんなは一斉にその女性へ顔を向けた。
 ひと呼吸おいて「すみません」と、うしろの方から上品な声がした、今度はみんな一斉に振り向いた。
 その人は、お洒落な洋服を着た上品な白髪の婦人だった。その白髪の婦人は、
「三百万円」と、優しい声で入札した。
 江美は見覚えのある婦人だな……と思ったが、すぐ思い出した。それは、先週の日曜日に柵の前でじっと仔犬を見て微笑んでいた白髪の婦人だった。
 すかさず、先程入札した恰幅のいい壮年が「三百五十万円」と力強く言った。
 突然、「さんびゃくろくじゅうえん」と小さな女の子のかわいい声が店内に響いた。店内から爆笑が巻き起こり、緊張した雰囲気が少し和らいだ。

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