それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第二章 その1
 翌日、オークションでミニチュアダックスの仔犬を購入した白髪の婦人からわんランドへ電話があった。受話器を取った店長は白髪の婦人とわかると、
「昨日は、誠にありがとうございました」
 丁重にお礼を言うと、
「こちらこそ、本当にありがとうございました。早速、しつけをしてもらいたいと思ってお電話させていただきましたの」
「はい、かしこまりました。担当の服部江美に替わりますので、少々お待ちください」
 電話に出た江美は白髪の婦人と楽しそうに話をして、最後にしつけの日時を決めて電話を切った。
 アシスタントの里香は急いで白髪の婦人の顧客リストを確認すると氏名は大沢純子、住所は帝塚山……、ここは大阪府下で屈指の高級邸宅街。そしてお金持ちが多い地域で有名だった。
 翌朝十時頃、江美の運転するワゴン車は国道二十六号線の玉出付近を走っていた。数百メートル進んで交差点を左折すれば、帝塚山にある大沢邸に到着するとカーナビがしゃべっている。
 電話番号を入力するだけでモニターと音声で目的地まで道案内してくれるから、まだ大阪の街にうとい江美でも迷うことはない。
 帝塚山はやはり噂に違わず高級邸宅が街並みを埋め尽くしていた。あちこちの大きな庭から満開の桜が誇らしげに咲いていた。
「江美さん、あそこの豪邸が大沢さんよ」
「ほんとすごい豪邸ね……里香ちゃん、大沢さんに電話してくれる」
 里香が電話をすると、すぐガレージの自動扉が開いた。ガレージにはボルボとポルシェが駐車してあった。まだ三台は余裕で駐車できそうな広いガレージだった。
 江美はワゴン車を駐車して広い庭に出ると芝生が敷き詰められ、塀側には立派な桜の木々が美しい花をちりばめていた。奥さまは仔犬を連れて庭の中央で出迎えてくれていた。
 仔犬をオークションで販売してもう三日が経っていた。仔犬は江美と里香を見ると尻尾を激しく振って大喜びして戯れついてきた。
「おはようございます。奥さま今日はよろしくお願いいたします」
 江美と里香は戯れる仔犬と遊びながら元気よくあいさつした。
「おはようございます。江美さん、里香さん、こちらこそよろしくお願いします。そうそう、この子の名前が決まりましたよ」
「そうですか……で、何と言う名前ですか?」
 里香は大きな声で訊ねると、
「ラッキー」
 奥さまは微笑んで答えた。
「ラッキー、いい名前ですね……。よかったねラッキー」
 江美と里香は仔犬の頭を撫でながら、名前を何度も呼んでいた。
「ありがとうございます。ちょっと休憩して珈琲でもいかが?」
「すみません、ありがとうございます」
 二人が案内されたリビングは五十帖のフローリングで調度品はすべてイタリア製。壁際には百インチの液晶モニターが大きな顔をして居坐っていた。鮮やかな緑の観葉植物が窓際にセンスよく置かれていた。
 しばらくするとキッチンから香ばしい珈琲の匂いが漂ってきた。(あぁ……いい香り、気持ちがリラックスする)と、江美は大きく息を吸って腹のなかで呟いた。

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