それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第一章 その14
 事務所では、赤ちゃんの術にかかった壮年からオークション妨害の依頼人を訊きだそうと、江美はアメやチョコレートを餌にして訊問していた。
「ぼくちゃん、チョコレートあげるからおしえてね」
「わあーい……いいよ」
「わんちゃんいっぱいいるとこってどこなの?」
「あのね……あっち」
「ぼくちゃん、あっちってどっちなの?」
「あのね……こっち」
「こっちって、どこなの?」
「ぼくね……あっちかこっちかわかんない」
「そうだよね、そしたらどんなところ?」
「あのね……テレビがいっぱいあるよ」 
(テレビがいっぱいあるところ……そうだ、日本橋の電器の街だ!)と思った江美は、店長に日本橋の電器の街にペットショップがあるか確認した。
 店長はしばらく考え込んで、「そうだ」と呟いて、最近のペット雑誌で見たことを思い出した。
 店長はその雑誌を探してページをめくると、その店の取材記事があった。
「江美ちゃん、これですよ……見てください」
 じっとそのページの写真を見つめて江美は呟いた。
「ほんとだ……オーナーは胸の大きな若い女性だわ」
 江美はその写真を壮年に見せて訊ねた。
「おっぱいのおおきなおねえさんって、この人?」
「そうだよ……このおねえちゃんだよ」
 それを確認した江美は、壮年の首のツボを人差し指で鋭く突いた。すると、壮年は首を激しく左右に振って正気に戻った。
 江美は、静かにペット雑誌の店の掲載ページを見せて訊ねた。
「ねえ、このペットショップから頼まれたのね」
「そんなん知らん」
 壮年はそう言ったが、明らかに動揺していた。
「隠しても無駄よ、さっき全部白状しんだから。このビデオカメラで撮影してあるのよ」
 江美は机の上にあるビデオカメラを指差して鋭く言った。
「えっ……!」
「こんな汚い営業妨害は人間として恥ずかしいことだとだから、堂々と営業努力して業績をあげることを考えなさい。今回は罰金の十万円を払ったら許してあげるから、もし払わなかったら警察に通報すからって、このペットショップのおっぱいの大きなお姉さんに言っときなさい」
 江美は諭すように言うと、壮年はペコリと頭をさげ背中を丸めて事務所を出た行った。それと入れ替わりに、どんべえと白髪の婦人が一緒に入って来た。
 江美は白髪の婦人に落札が不正だったことを説明して、落札は白髪の婦人の五百万円に決定したことを告げた。
 それを聴いた白髪の婦人は、
「えっ、本当ですか。嬉しいわ……夢みたい」
 こぼれるような笑顔になった。見る見る澄みきった瞳から涙が溢れ出した。
 無事に契約と決済が終ると、白髪の婦人はミニチュアダックスAZの仔犬を優しく抱きあげ「はじめまして、これからよろしくね」と言って、何度も頬ずりしていた。
 仔犬は白髪の婦人に戯れついて喜んでいた。仔犬もこうなることを望んでいたようだ。
 そんな光景を見ていた江美は目から涙が溢れた、ふと見ると里香もどんべえも瞼を濡らしていた。店長はうしろを向いて小刻みに背中を震わせていた。
 オークションで不正はあったが、結果的に江美は願っていた通り、優しい人に仔犬を購入してもらったことに満足した。

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