それゆけ忍者
【自作小説】幸運をまねく奇跡の仔犬と忍者のヒューマン物語
第一章 その13
「それでね……おっぱいのおおきなおねえちゃんはどこにいるの?」
「あのね……いっぱいわんちゃんがいるとこ」
「わんちゃんがいっぱい?」
「うん。かわいいわんちゃんがいっぱいいるとこだよ」
 店長はびっくりして、夢でも見ているのではないかと何度も瞬きした。
 江美のことは噂で忍者くノ一だと聞いていたが、こんな見事な忍術が使えるとは想像もしていなかった。
 一方、里香は江美から耳打ちされたことを訳も聞かず、急いで入札していた白髪の婦人を探した。しかし帰ってしまったようだった。まだそう時間は経っていないので、どんべえに白髪の婦人を探して連れて来るよう指示をした。
 どんべえは、
「ワン・ワン……おばあちゃんさっきまでここにいたんだよ」
「そうなの」
「クン・クン……ぼくそばにいたからにおいわかるよ」
「よかった。そしたらすぐおいかけてつれてきてくれる」
「ワン……わかった」
 と、言ってか? 鳴いてか? どんべえはすぐ店の外へ飛び出した。そして、歩道の匂いを「クン・クン」と嗅いで、東の方向へ一目散に走り出した。
 どんべえは犬だが人間なら三十二歳の男性、伊賀の江美の実家で生まれた。江美から忍者の厳しい訓練を受け、人間と会話もできる賢い忍者犬として成長した。
 どんべえは愛嬌のあるかわいい顔をして、いつも尻尾を振っているので、鎖につながれていなくても誰も怖がらない。そんな利点を活かしてどんべえは忍者犬として自由に行動していた。
 どんべえは軽快に風をきって道行く人をうまく避けながら疾走していた。遠くの大きな公園の側で白髪の婦人が立ち止まっているのが見えた。白髪の婦人は蕾がたくさん顔を出してまばらに開花している桜花をじっと眺めていた。どんべえは見る見る白髪の婦人に迫って、あっという間に白髪の婦人を追い越した。そして振り向いてちょこんとお坐りして尻尾を激しく振っていた。
「あら、さっきのお店のどんべえ君じゃあないの?」
「クン・クン・クン」
 どんべえは何度も頭を下げて頷いている。
「どうしたの?」
 白髪の婦人が怪訝な表情をして訊くと、どんべえは立ち上がってわんランドへ帰ろうとして、ちょっと歩いて振り返って、白髪の婦人を見て「クン・クン」と鳴いた。
「おかしなどんべえ君ね。それじゃあ……バイバイ」
 そう言って白髪の婦人は歩き出した。
 するとまた、どんべえは白髪の婦人を追い越してお坐りして、何度も頭を下げている。そして、立ち上がって今度はうしろ歩きをしながらわんランドへ帰ろうとした。
 それを見た白髪の婦人のハッとして、
「お店に戻れって言うの?」と訊くと、どんべえは「ワン」と鳴いた。
「あら……わたしの言っていることわかるの?」
 白髪の婦人が訊くと、また「ワン」と鳴いた。
「えっ、わかるのかしら? そしたらお店に戻りましょう」
 それを聴いたどんべえは大きくジャンプして喜び、お店に向かって飛んで行った。
 しかし、しばらく走ると止まって振り向き、白髪の老婦人が来るまでじっと待っていた。
 道行く人たちはその奇妙な光景を立ち止まってじっと見ながら首を傾げていた。
(なんて賢い犬なんだろ……)と、白髪の婦人は感心しながら「わんランド」へ戻って来た。

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